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2008年12月20日

認知症の者が遺言を作成するときは?

■遺言能力

民法は、遺言者が満15歳以上で、遺言をする時において能力を有していれば遺言をすることが出来るとしています。

遺言をする能力を遺言能力と言い、民法963条の「能力」とは一般的に意思能力を指す者と考えられます。泥酔者などには意思能力がなく、認知症の者も症状の程度が進行しており、事理を弁識する能力を欠く状態になっているような場合には意思能力なしとして遺言は無効になります。

また、一般の法律行為については、判断能力を有しないものを保護する見地から、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の規定を設け、それぞれ行為に制限を受ける旨の規定を定めています。

しかし、遺言に関しては15歳以上であれば遺言能力を有するとし、制限行為能力者についてその規定を適用しないとしており、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人も遺言能力を有するとしています。

このような、一般的な法律行為と異なる定めをおいた趣旨は、「遺言は自然人の最終的な意思であり、出来る限り尊重すべきであるという価値判断が働くこと」「遺言の内容は認知等の身分行為も含まれること」「一般の法律行為ほどの保護を制限行為能力者に与えなくても、遺言の効果が発生するのは遺言者死亡時からであるため遺言者の保護に欠けることはないこと」が挙げられます。

もっとも、成年被後見人については、後述しますように事理を弁識する能力を一時回復した時点において、医師2人以上の立会いのもと、遺言をしなければならないと定めています。

よって、15歳以上であり、かつ、意思能力を有する場合には遺言をすることは出来ますが、成年被後見人については、民法の定める手続によらなければならないことになります。

このことは、すべての方式の遺言に当てはまります。


■成年被後見人の遺言
   
1 手続

成年被後見人が遺言を作成する場合、各遺言個別の要件を満たす他に、以下の要件を満たす必要があります。

@成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復したときに遺言を作成すること

A医師2人以上が立会うこと

B遺言に立会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神情の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を、遺言書に付記して署名押印すること

C秘密証書遺言においては、封紙にその旨を記載し署名押印すること
民法973条は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言いずれにも適用されますが、成年被後見人がいつの時点において、事理を弁識する能力を一時回復している必要があるかについては、遺言の種類ごとに異なります。

自筆証書遺言では、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し押印する際に能力を回復している必要があります。

公正証書遺言では、公証人に遺言の趣旨を口授するところから公証人が署名押印するまでの全体で能力を回復している必要があります。

秘密証書遺言では、遺言書本文の作成と遺言証書を封じた封書を公証人及び証人2人以上の前に提出し、公証人が署名押印するまでの間に時間が空く可能性がありますが、封書を公証人に提出した時に能力を回復している必要があります。

医師は、遺言者がそれぞれ能力を有していなければならない間、間断なく、立会っている必要があります。

なお、医師は立会人になりますので、証人及び立会人の欠格事由に該当する医師は立会うことが出来ません。

よって、認知症の老人が遺言を作成する場合、遺言者が成年被後見人となっている場合は、民法973条の手続を経る必要が生じます。

成年被後見人となっていない場合、民法973条の手続を経る必要はありませんが、後日遺言の無効が争われるリスクを軽減するには、民法973条の手続に従って作成するほうが良いと思われます。


2 意思能力の有無の判断

いかなる場合に意思能力を有し、事理を弁識する能力を一時回復していたかの判断は、事案ごとの判断になります。

公正証書遺言によったとしても、遺言能力を有さないという事案はあります。遺言能力の有無の判断要素は、遺言者の年齢、病状の推移、遺言作成時前後の様子、発病と遺言時との時期的関係、遺言時及びその前後の言動、日頃の遺言についての意向、遺言内容等になります)

例えば、名古屋地裁岡崎支部平成5年5月27日判決(判時1474・128)は、脳梗塞になり禁治産宣告を受けた遺言者が、脳梗塞後、判断能力が日によって好転と悪化を繰り返していたとした上で、遺言作成時には、判断能力が良好な状態であることを医師が確認したものとして、遺言作成時には判断能力を有していたと認定しています。


■被保佐人・知的障害者の遺言
  
被保佐人は、事理弁識能力が著しく不十分な者を言います。被保佐人が重要な財産処分行為をするには、保佐人の同意が必要であるとされていますが、被保佐人が遺言をするには制限がありません。

また、知的障害者も、遺言能力を有してさえいれば特段の制限はありません。被保佐人や知的障害者が、遺言書を作成するための民法973条の手続を経る必要性はありません。

しかし、「被保佐人であっても判断能力の低下が進行することはあり得ること」「知的障害者も必ずしも作成時に意思能力を有しているとは言い切れないこと」からすると、遺言書の作成は慎重にされるべきです。

判断能力に疑問があり、後日遺言の無効が争われるリスクを軽減するには、民法973条の手続に従って作成することが良いと考えます。

また、「医師の診察を受け診断書等を作成してもらう」「遺言者の生活状況、病気の状況等を細かに記録する」などして、遺言者の状態を記録化しておくことも、後日遺言能力が争われた際の証拠になり得るため良いと考えます。



posted by なり at 10:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 遺言の基礎知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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